日誌

感情はどのようにして育つのか?⑩

10 ネガティヴな感情が社会化されないとき(2)

子どもの適応スタイルとしての解離様式を、親子のコミュニケーションの視点から考えています。子どもの感情の発達途上において、身体と認知の間における解離現象というものが、きわめて顕著に見られています。親子のコミュニケーションの改善が、子どもの解離様式を無効化して、感情の統合を促します。

A君の暴発

A君の父は、厳しくしつけなければならないとの信念をもち、厳しい体罰を加えました。母の心の 中には、赤ちゃんを殴るような子どもはどうしても愛せないという拒絶の気持ちがわいてきていました。3歳になったA君は見違えるほどよい子になり、弟をかわいがるようになりました。それからあきらはとてもやさしいおだやかなお兄ちゃんになり、弟が生まれたときにあれほど激しい子どもだったことは両親も忘れてしまうほどでした。ところが、小学校入学後、おだやかにしているかと思うと、突然に友だちを突き飛ばしたり、殴りかかったりするようになりました。家では大変おだやかで、弟をよくかわいがり、母の手伝いをするやさしいお兄ちゃんなので、両親は学校での様子を理解することができません。

このような感情の状態にある子どもは、身体と認知(頭)との間で解離していますので、身体で感じているネガティヴな感情が非言語的に表情などに表出されないという特徴をもちます。家では、にこにこおだやかで、感情的になることもなく、困っていることは何もないという子どもの姿です。それはまさに親が求めている理想の子どもの姿かもしれません。ところが、解離させていたネガティヴな感情は、学校でのちょっとしたトラブルや不安を喚乱状態に陥ったのです。おうちモードと学校モードが壁で隔てられているような状態になっているので、おうちでの様子と学校での様子がまったく異なるのです。

表情というものは、意識でコントロールしたくてもできないという性質をもつものです。勝手に顔が赤くなってしまったり、元気のない顔や不安な顔になってしまったり、あるいは「何かいいことあったの?」と隠しておきたいこともばれてしまったりするものです。身体と認知がつながりをもっている状態にあるときには、感情はおのずと表情に非言語的に表出されます。ところが、のイメージで示したような感情の育ちをしている子どもは、感情が非言語的に表出されないのです。すごく困っているのに、元気な顔をしていて、いじめられているのに、へらへらしていて、つらいことを明るく話し、葛藤を抱えるということができないのです。つらいことを明るく話すので、つらさを理解してもらえず、ますますネガティヴな感情を承認される機会を失うという悪循環にはまつていきます。

A君の例は、弟が生まれれば当然に生じる嫉妬の感情を、親から「当然」のことと承認してもらえな いところから派生して、しつけの行きすぎや叱りすぎが生じ、ネガティヴな感情の社会化が妨げられるという例でした。このように、しつけをあせり、きちんとよい子にしなければと思うあまり、叱りすぎることによって体罰も生じ、虐待的関係に陥ってしまうという例が、ひとつの典型です。