日誌

国語がよくわかっていないことを考える⑦

7 何が主語で、どれが述語?

日常で使う会話のほとんどは、主語と述語が明確になっていません。省略することで、親しみやすさを表したり、会話をテンポよく進められたりするという利点があるからでしょう。日本語というのは、シチュエーションの中で成り立つ言語なのです。例えば、「妹は男です」という一文。誰が見てもおかしいと思います。ところが、ある状況下の会話の中で出てきたのであれば、間違ってはいないのです。

ある2人の女性が会話をしているとしましよう。

女性A「お子さんが生まれたんですって?」

女性B「はい。女の子です」

女性A「妹さんも、確か今年出産されたのよね」

女性B「はい。妹は男です」

いかがでしようか。正しくは、「妹は男の子を産みました」ですが、話の流れの中では、「妹は男です」という一文は間違いではありません。このように、シチュエーションの流れの中で理解していく言語なので、絶対に主語や述語がなくてはならないわけではないのです。国語の教科書でも、物語文では主語、述語が抜けることが多いです。ですから、子どもが書いた文章を見て、「この文章には述語が抜けているわね」とか「主語は何?しっかり書きなさい」といった指導は、子どもにとってはとても窮屈なことで、痩せた文章しか書けなくなってしまうことがあります。それが日本語の特徴です。

とはいつても、学年が進むにつれて、論理的な文章を読んだり、説明的な文章を書くようになったときは、「何が」「どうであるか」を正確に読み取ったり、書き示したりすることが求められます。そのときのために、主語、述語についての認識を深めていく準備は必要です。

日常の会話の中で、子どもが「ジュース!」といった単語だけだったり、「はい、これ」というような主語述語抜きの短文ばかりを話したりするのであれば、その都度、「誰が?」「何を?」「どうしたの?」と聞いてあげればいいでしょう。ただ、あまりしつこく追及すると話すことが面倒になってしまうので、深追いしないこと。子どもによっては言葉が出てこなくなってしまうこともありますから、この点は注意が必要です。

主語、述語を見失わないためのヒント

長い文章を短く表現する言葉として、東北地方の方言「どさ(あなたはどこへ行くの)」「ゆさ(私はこれからお風呂に行くところです)」が有名ですが、状況で理解したり察したりする能力を磨くことも大切です。主語、述語にこだわり過ぎては文章が回りくどくなることもあります。主語、述語は必要に応じて意識させるようにしましましょう。

(1)述語からスタートする

実際にあったことを正確に伝えたいときは、「今、何について説明しているのか」「何についてわかってほしいのか」を、明確にしなければなりません。そのためには主語から始まり述語で締めくくるという、王道の文章を構成していく必要があります。事実を正確に伝えることを職業とするアナウンサーのトレーニングは、まず述語から始めるといいます。「〜しました。」「誰が?」「どのように?」「どうして?」と下から上に戻ることで、必要な情報を取りこぼすリスクを減らしているのだそうです。

(2)指示語を理解しているかどうかを確認する

説明的な文章では、「これは」とか「このように」という指示言語がよく使われます。基本的には同じ言葉の繰り返しを避けるために使われることが多いので、直前の文を見直せば対応できます。こういった学習によって、文章の構成や内容が理解しやすくなります。また物語の文中でも、「あれ」「それ」が使われることがありますが、話の流れをしっかりとイメージできれば、何を指しているのかは理解できます。会話の中で頻繁に「あれ」「それ」が出てきて、言いたいことが伝わらないならば、一つひとつていねいに聞き取ってあげるといいでしょう。

(3)子どもが話したくなる空気づくリをする

言葉は、日常で使うことによって身につくものです。家族間で会話をする時間は、言葉を学ぶための、最も有意義で効果の高い学習タイムといえるでしょう。子どものロから「面白いことがあったよ」という言葉が出たときには、「何があったの?」「どう面白かったの?」「誰と一緒だったの?」と、興味を持って聞いてあげてください。質問に答えようとするときに、子どもは一生懸命に考えます。そこには「伝えたい」という思いがあるからです。家族が一堂に揃ったときは、お互いに質問したり出来事を伝えあったりできる雰囲気や空気を作りましょう。