日誌

感情はどのようにして育つのか?⑫

12 子どものトラウマを形成しやすい心の状態(1)

子どもの感情の育ちの中でことばとのつながりを持たず、ネガティヴな感情は社会化されることが難しくなっています。ネガティヴな感情は、混沌としたエネルギーのまま閉じ込められ、成長発達のなんらかの機会をきっかけに暴発してしまいます。

身体と認知の壁は解離の度合いによって、レースのカーテンのような状態から、鉄筋コンクリートの壁のような状態までスペクトラムな度合いがあると考えてください。虐待や体罰などにより、鉄筋コンクリー卜の壁が構成されているような場合は、思春期になって解離性障害を発症するような深刻な状態であると考えられます。レースのカーテンレベルの壁は、いまどきの多くの子どもたちに共通した感情の構造であり、多くの子どもたちが抱えている脆弱性の問題に通じるものと言えます。脆弱性とはトラウマを形成しやすい心の状態です。感情の発達のプロセスにおいて、健常なレベルでの解離の防衛をたくさんたくさん使って、適応のための解離様式を身につけている場合には、病理的なレベルでの解離のメカニズムをもつ「トラウマ」を形成しやす状況です。このトラウマを形成しやすい心の状態は、子どもたちが傷つきやすく、挫折しやすくなっていることが背景のひとつであると考えられます。

トラウマは、心的外傷を受けた出来事の記憶の問題であると考えられています。「心の傷」というのは、あいまいな響きをもつことばですが、実は「記憶」の問題なのです。我々が経験する出来事は、通常、認知・情動(その出来事にともなう感情)・身体感覚・イメージ・音などの情報がセットになって記憶され、脳の神経回路の中で情報処理されると考えられています。ところが、耐えがたくつらい出来事(外傷本体験)に出会うと、脳の「海馬」の働きが抑えられることにより、認知・情動・身体感覚・イメージ・音というまとまりが、切り離されて、つらさを感じないようになります。これは「解離」といわれる防衛のメカニズムであり、人がつらい経験の中を生き延びようとする適応のプロセスでもあります。しかしながら、そのような外傷記憶は、それを思い出させるような引き金の存在により、突然予測不可能な形で、フラッシュバックします。フラッシュバックとは、つらい体験をしたときに適応するために切り離されていた身体感覚や情緒(激しい怒りや悲しみなど)が一挙に蘇り、一種のパニックに陥る状態をいいます。